給料ファクタリングを東京地裁が違法と判断!
キャッシングやカードローンのCMが今でも盛んなように、個人のお金の需要は非常に大きな市場となっています。
法人の借り入れと違い個人の借り入れは額こそ小さいものの、返済が焦げ付き多数の自己破産者がでるなど社会的に不都合な事態が頻発したことから、現在は法規制によって借り入れできる限度が限定され、利用者側の使い勝手も制限されています。
これは国民の安全を守るための措置ですが、近年この規制をかいくぐる新手の個人向け金融「給料ファクタリング」が登場し、新たな被害者を生んでいます。
また、近時のコロナショックにより被害者が急増しているところです。
初めて名前を聞いたという人も多いと思いますが、注意喚起として本章では危険性の高い新しい個人向け金融「給料ファクタリング」について詳しく解説していきます。
給料ファクタリングとはどういうものか?
給料ファクタリングは、法人向けの資金調達法である「ファクタリング」という手法を個人向けに応用したものです。
ファクタリングは掛け取引を行う企業間で発生する「売掛債権」に財産的価値を見出し、これを売却して現金化することで資金調達を行います。
元々は海外発祥のものですが、近年は国内事業者の間でも認知度が高まっています。
銀行などから借り入れや融資を受ける場合、借り手には弁済義務が生じ、一定の利息を上乗せして返済しなければなりません。
しかしファクタリングは債権の譲渡取引であるため、理論上は貸し付けと違い利息や金利といった概念がなく、返済義務も生じません。
ただし一定の手数料を支払う必要があり、これを金利に換算するとかなりの負担になるので、融資や借り入れよりもリスクが高い取引になります。
個人向けに応用した「給料ファクタリング」では、上記の売掛債権の代わりに「給料債権」という概念を利用します。
勤め人の方は会社からお給料をもらって生活していますが、月末など定められた時期までは支払いを受けることができません。
これを「将来給料をもらえる権利」と位置付けて、法人間取引で生じる売掛債権のように扱い、売買取引の対象にするのが給料ファクタリングです。
給料の支払い日まで待てない現金需要が生じた際に、一定の手数料を負担した上で給料ファクタリング業者に給料債権を売り、手元に現金を用意できるとうたわれています。
次の項では給料ファクタリングの取引ロジックについて詳しく見てみましょう。
給料ファクタリングの仕組み
一般的な給料ファクタリングでは、利用者と給料ファクタリング業者の二者だけが取引当事者となり、以下のような流れで取引が進められます。
- 給料ファクタリング業者と利用者で契約を締結
- 当該業者から利用者に、手数料分を差し引いた給料債権の買取金を支払う
- 給料が勤め先から通常通り利用者に支払われる
- 利用者が給料を原資にして、手数料を乗せた清算金を給料ファクタリング業者に支払う
以上はいわゆる二者間取引によるロジックになります。
法人向けのビジネスファクタリングでは、売掛先の企業(給料ファクタリングでは利用者の勤め先にあたる)の同意を取り契約当事者に入ってもらう三者(社)間取引もあるのですが、給料ファクタリングでは労働基準法による給料の直接支払いの原則があることや、利用者の「勤め先に知られたくない」という意思が働いて二者間取引になるのが普通です。
この給料ファクタリングでは、利用者に向けて以下のようなメリットがうたわれています。
- 即日で現金を用意できる
ケースにもよりますが、手続きが滞りなく済むことを条件に、早ければ申し込み当日中に現金の振り込みを受けることができます。
- 金融ブラックでも利用できる
キャッシングなどの借り入れの返済ができなくなり金融ブラックの状態の人でも、給料ファクタリングは債権の譲渡取引であることから、信用情報に関係なく取引できます。
- 信用情報に傷がつかない
借り入れと違い信用情報機関に登録されることがないので、自分の信用情報(クレヒス)に傷がつかない
- パートやアルバイトもOK
勤めていて給料債権があれば利用できるので、雇用形態は問いません。また一部の業者は配偶者が勤めていることを条件に、専業主婦でも利用可とするところもあります。
- 秘密性がある
二者間取引によることから、勤め先に知られないメリットをうたいます。
- デフォルトリスクがない
給料債権を譲渡した後、万が一勤め先が倒産して資金回収ができなくなっても、利用者はその責任を負わずに済みます。
どうでしょうか、お金が必要な人にとっては飛びつきたくなるような宣伝ばかりですね。
特に金融ブラックでどこからも借りられない人には大変魅力的に映ることでしょう。
しかしこうした餌につられて利用してしまうと非常に危険です。
次の項では給料ファクタリングのリスクや危険性を見ていきます。
給料ファクタリングのリスクと危険性
給料ファクタリングのお金の流れを良くみると、「給料債権」という概念がもし無ければ、お金を貸して返すという単純な構図に似ています。
貸金ビジネスに似ているのに、現状では法規制が全くされておらず、積極的な取り締まりもされていません。
貸金業法の適用を受けないことから業者登録の義務もなく、手数料の上限などもありません。
ほぼ無法状態となっていることから、闇金業者が多数参入しているとされています。
元々闇金は昔から給料債権の有る無しに関わらず、金を押し付けて利用者を脅し暴利をむさぼっていましたから、給料ファクタリングでも給料債権の有無はそれほど関係なく、彼らにとっては親和性の高い、参入しやすい業界なのです。
手数料の負担も大きく、一般的に二者間取引による給料ファクタリングの手数料は10%~30%程度とされますが、実際は比較的良心的なところでも最低15%程度~、その他多くの業者は40%前後は取るところが多いようです。
仮に40%であれば、10万円の給料を6万円で売り渡すことになり、4万円は損をする計算です。
とても良い取引とは思えませんが、今すぐ現金が欲しいという人は冷静な判断ができないこともあるので注意が必要です。
そして、悪質性の高い業者はもっと高い手数料を徴収することも考えられます。
ルールがない状態ですから、利用者を貶めようと思えばいくらでもできてしまうのが怖いところです。
例えばHPでは低い手数料をうたっておいて、色々と難癖をつけて手数料を増額したり、登録料や違約金など別の名目で金を巻き上げることもできます。
ここら辺の手口は闇金業者であればお手の物ですね。
利用者は勤め先や家族などに知られたくないという弱みがあり、個人情報を渡してしまっていますから、これをネタに脅しをかけるのが常套手段です。
また相手に渡してしまった個人情報は他の業者に転売されたり、犯罪に悪用されるリスクもあります。
ともかく、悪質性の高い業者が相当数紛れ込んでいる状況であるということを考えて、給料ファクタリングは利用しない方が賢明です。
そして昨今、行政や司法も給料ファクタリングについて違法性を認めるに至りましたので、これを次の項から見ていきます。
金融庁が違法であると判断
金融庁は令和2年3月5日、ノンアクションレターを発行し、一般的な給料ファクタリング(上述した二者間ファクタリング)について、貸金業にあたると判断し、貸金業法の適用を受けるとの見解を出しました。
ノンアクションレターとは、民間の質問に対して法解釈について回答を行うものであり、文字通り、このレター記載内容に従っていれば、金融庁などの公的機関は、行政指導などの行動を起こさないという意味での、ノン・アクション(Non Action)を表明するためのレターです。このレター記載内容に従っていれば、金融庁などの公的機関は、行政指導などの行動を起こさないという意味であり、金融庁の行政判断は拘束しますが、司法判断を拘束しないことには留意が必要である。
その理由として、給料ファクタリングのスキームは実質的に金銭の貸し付けと同視できるためとしています。
外観上は債権の譲渡取引をうたっていても、お金の流れをみれば実質的に貸金ビジネスと同じであり、貸金業法の適用を受ける、と判断したのです。
そうであれば、給料ファクタリング業者は無登録で活動していることになりますから、罰則の適用も考えられます。
ただ、この金融庁の公式見解はノンアクションレターと呼ばれる制度を使って発表されたもので、個別の業者について調べて違法性を確認したわけではありません。
しかし今後は、公式見解の下で給料ファクタリング業者への締め付けを強めていくものと思われます。
東京地方裁判所も給料ファクタリングを違法と判断
また東京地方裁判所の判断により個別の給料ファクタリング業者の違法性を判断した事例もあります。
令和2年3月24日東京地裁は二件の事案で給料ファクタリングが貸金業法、出資法違反で契約は無効という判断を下し多たようです。
この二件はどちらも、給料ファクタリングの利用者が必要な支払いを怠ったことで、給料ファクタリング業者側が提訴した事案ですが、結果自分たちの違法性が認められてしまうという結果になったようです。
この二つの事案では、給料ファクタリングにより利用者が得た金銭は不法原因給付にあたるため返金の義務がないことの他に、業者側が無登録で貸金業を営んでいると認定され、無登録業者として刑事罰の対象になることなどが示され多様です。
こちらは個別の業者が行う給料ファクタリングについて司法が違法性を認めたもののようです。
前項の金融庁による行政判断だけでなく、司法判断も給料ファクタリングが違法であることが示されたわけです。
現状で積極的に取り締まるのは難しい
行政・司法により違法性が認定された給料ファクタリングですが、残念なことに今すぐ積極的な取り締まりが実施されることは期待できません。
前述の金融庁の見解はあくまで質問を行った民間の質問に対して回答したものであり、司法判断については個別の二つの事業者について違法性を確認したものに過ぎません。
つまり、全国で営業する給料ファクタリング業者全てを、一斉に取り締まるべき法律は現状で存在しないということです。
今後、現状の貸金業法の法解釈や法改正などで対応していくことが予想されますが、目下のところは国民側で「給料ファクタリングは危ないものだ」という認識を持ち、利用しないようにすることが大切です。
すでに利用してしまっている場合は弁護士に相談するようにしてください。
恫喝や嫌がらせを受けて困っている場合は止めさせることもできますし、ケースごとの実情を見て、給料ファクタリング業者への返金を止めたり、既に業者に支払ったお金を取り戻す方策を練ることもできるかもしれません。
給料ファクタリングを巡っては、高額の手数料負担に追われて自己破産に陥るケースも出ていますから、そうならないように早めの対処が肝心です。
まとめ
本章では個人向けの現金調達手段として最近登場してきた「給料ファクタリング」について詳しく見てきました。
法人向けのファクタリングを応用し、個人向けに無理やり応用したものですが、お金の流れを見れば実体として貸金と同視でき、行政・司法の両方で違法性が確認されています。
個別業者のHPなどでは利用者のメリットが高々と掲げられているので飛びついてしまいそうですが、闇金など悪質な業者が野放しで活動しているため決して利用することの無いようにしてください。
何らかの被害を受けている場合は、警察や法律家の力を借りて毅然とした対応をとるようにしましょう。